2018年12月12日、「レッドハット・フォーラム 大阪 2018」がヒルトン大阪にて開催された。

テーマは「IDEAS WORTH EXPLORING アイデアとオープンソースのちからで、ビジネスに変革を」。4年ぶりに大阪で開催となった本イベントでは、午前中にはエンジニア向けのAnsible特別ハンズオントレーニングが行われ、追加日程も即時満席となるほどの人気となった。そして午後の数々のセッションの後には、ネットワーキングパーティーも開催され、大いに賑わいを見せていた。ここでは、当日のセッションの中でも注目すべき4セッションを取り上げたい。

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セッション 1

DXを推進するオープンハイブリッドクラウド

三木 雄平

レッドハット株式会社
テクニカルセールス本部
パートナーソリューションアーキテクト部 上席部長
三木 雄平

 冒頭で三木は、レッドハットがこれまで歩んできた道を振り返り「常に変化し成長を続けてきた一方で、この20年間ずっと変わってないこともある。それは、OSS(オープンソースソフトウェア)を軸にしたビジネスを展開すること、そして我々のビジネスによりお客様に提供する価値だ」と強調した。

 レッドハットが変わることなく提供する価値とは、1.エンタープライズへのOSS提供、2.競争力のあるテクノロジー、3.グローバルスタンダードである。

「一方で顧客が望む価値はこの5年ほどの間に大きく変わってきており、DX(デジタル・トランスフォーメーション)推進のパートナーとなることを強く求められるようになった」(三木)

 そうしたなか、レッドハットがビジョンとして掲げるオープンハイブリッドクラウドは、環境やシステムに依存せずに開発運用が可能なシステム基盤である。

「今後、オンプレミス/仮想環境、プライベートクラウド、パブリッククラウドを組み合わせたハイブリッドクラウドは定着していく。ただし操作性はそれぞれ全く違うので、アプリ開発や運用を同じ手順でできるようにしていくのが我々の使命だ」と三木は語った。

そのキーとなるプロダクトとして、運用自動化を飛躍的に向上させるAnsibleと、企業向けコンテナオーケストレーション基盤であるOpenShiftについて解説した三木は、「自社に最適なオープンハイブリッドクラウド環境を構築するためのヒントを今日のこの後のセッションで見つけていただきたい」と締めくくった。

三木 雄平

セッション 2

デジタルネイティブ時代に向けた
アプリケーションプラットフォームの展望

入谷 光浩 氏

IDC Japan 株式会社
ソフトウェア&セキュリティ
リサーチマネージャー
入谷 光浩 氏

 現在、DXをどうやって実現するかが多くの企業にとって経営課題となっている。IDCによると、世界のDX投資は2019年に1.25兆ドル(138兆円)から2022年には1.97兆ドル(217兆円)へと拡大する見込みだ。

 特別講演に登壇した入谷氏はこう主張した。「しかし日本企業を見ると、およそ65%の企業が何らかのかたちでDXに取り組んではいるものの、PoCの枠を越えられない企業が多い。こうした課題を解決するには、企業自身がデジタルネイティブ企業(DNE)に生まれ変わることが求められるのだ」

 DNEになるために必要なファクターの1つがDXプラットフォームである。これは、ビジネスイノベーションを拡大させるデジタルネイティブアーキテクチャであり、様々なビジネス活動や企業外のIoTやAR/VRなど、内部と外部のあらゆるデータをインテリジェントコアで分析して、意思決定し、新しいサービスを生み出すことができる。

「ビジネスとイノベーションのスケール、スピード、アジリティを実現する、デジタルネイティブ時代に向けたアプリケーションプラットフォームが『ハイパーアジャイルアプリケーションプラットフォーム』であり、PaaSにおけるIoTやAIなどの拡張機能とCaS(Container as a Service)、FaaS(Function as a Service)の3つを組み合わせることで実現される」と語った入谷氏は、コンテナ時代の到来を予測するとともに、「アプリケーション爆発時代に対応できる企業がDXを実現し競争力を高めることができる。そうした時代に備えてアプリケーションのプラットフォームを考えないといけない」と結んだ。

入谷 光浩 氏

セッション 3【事例】

Ansible in Practice:
A deep-dive look at running Ansible in the Enterprise

酒匂 大輔 氏、ウォーカー イアン 氏

I株式会社JALインフォテック
システム基盤企画部 課長補佐
酒匂 大輔 氏

システム基盤企画部 課長補佐
ウォーカー イアン 氏

 かつてJALインフォテックでは、インフラを取り巻く環境に関して、運用管理に関わる人が足りない、IT環境がバラバラでガバナンスを効かせられない、などの課題を抱えていた。そこで、標準化、テンプレート化、自動化という3段階のステップを経ることで課題解決を目指した。しかし、それぞれのステップで様々な問題に直面することとなり、試行錯誤したものの結局また手作業に戻ってしまったのだった。そんな2015年頃に出会ったのがAnsibleだった。

 酒匂氏はこう振り返った。「現状の課題分析とAnsibleの適用範囲を決めていった。システム開発業務においてサーバー構築作業がボトルネックとなっていたので、まずはそこの改善をとAnsibleを導入したところ、作業に要するリードタイムと工数が劇的に短縮した」

 Ansible導入に当たり、同社はシステムを4階層で考えて、そのうち上から3層目の標準化設定をプレイブック化。さらにプレイブックを分割してネットワーク設定など個別のロール化も実施した。

「ロールの設定を固定せずに、ユーザー自身が簡単に変更できるようにしたのもポイントとなった」とイアン氏はコメントした。

 さらにJALインフォテックでは、つくったロールにガバナンスを効かせるべく、Ansible Towerも導入したのである。

「Ansible Towerを導入し、標準設定のプレイブック化、基盤構築作業の自動化を実現できている。これからは本格自動化のフェーズに入ることになるが、最終的にはインフラレイヤを完全に自動化したい」──イアン氏は力強く語った。

酒匂 大輔 氏、ウォーカー イアン 氏

セッション 4【事例】

働き方改革の取り組みと
それを支えるIT基盤のご紹介

野波 成 氏

大阪ガス株式会社
情報通信部
インフラ技術チームマネジャー
野波 成 氏

 大阪ガスでは2003年に「ワークスタイル変革」という目標を掲げて以来、ITインフラの整備を続けてきている。まず2007年までの「働き方改革フェーズ1」では、従来のワークスタイルを見直し、情報の電子化を行うことで効率的な働き方の促進が目指された。インフラ環境に関していうと、社員はPCを持ち歩き、社内のどこでも仕事ができるようにするとともに、社会からリモートアクセスで社内ネットワークに接続できるようにもした。

 野波氏は、「このフェーズはコストを示すなどして効果を明確に打ち出しやすかった」と振り返った。

 続いて「働き方改革フェーズ2」は、2008年から2013年まででここでは主に情報の共有化が目指された。この期間には、定形業務のアウトソーシングを促進し時間を創出するとともに、非定型業務の効率化・品質向上のためデータ活用の促進とコミュニケーションの強化を図ったのである。その際には、OSSの活用を積極的に行った。

「働き方改革を進めていくと社外とも関わりが強まってくる。利用者やデバイスが多様化するため、商用ライセンスのままではコスト面などで問題が生じてくることになる。そのため多くのシステムをOSSで開発した」(野波氏)

 そして2014年から現在に至る「働き方改革のフェーズ3」では、エネルギー自由化など市場環境が激変するなかで、変化に柔軟に対応できるITインフラへの移行を目指しているという。インフラ環境については、全社スマートフォンの導入により決裁や情報閲覧はスマートフォンだけで可能するとともに、資料作成などの作業も仮想デスクトップで行えるようにしたことで社内外どこでも普段と同じ環境を利用できるようにしている。

「過去の3つのフェーズで目指した、情報の電子化、情報の共有化、端末のモバイル化といった施策は、コストメリットが生み出しやすく経営者にも説明しやすい。いずれ商用ソフトのライセンス体系に問題が生じた際には、OSSの活用をおすすめしたい」と、野波氏は力説した。

野波 成 氏

RED HAT FORUM OSAKA 2018 開催レポート