2020 年がようやく過ぎ去ってくれました。2020 年という年は、混乱と変化の波にのまれながらも、社員、パートナー、お客様、コミュニティという Red Hat の最も重要な側面を際立たせてくれた 1 年でもありました。私たちにはレジリエンシー (回復力) があると確信することができたのです。組織として嵐を乗り越えただけでなく、私たちの周囲が立ち上がるための手助けをすることもできました。それを私はとても誇りに感じており、ビジネスとして、オープンソース・コミュニティの柱として、そしてグローバルな組織として、常に安定を維持できたことに Red Hat の CEO として心から感謝しています。 

Red Hat はコミュニティから誕生しました。コミュニティは Red Hat の全ての中心です。不確実性に直面したときや、困っている人がいるのを目の当たりにしたとき、私たちは共に力を発揮します。この 1 年を通して Red Hat の社員は、不屈の精神と人間性を発揮しました。私が CEO に就任した際、私は「今ここにいる社員には、1 年後も全員ここにいて欲しい」というコメントをしました。我々はそれを皆で守ることができたと思っています。

当時は仕事とプライベートの線引きが曖昧になっており、ワークライフバランスが話題の中心になっていました。自身の私生活や精神衛生をケアすることができなければ、お客様のニーズを満たすことなどできません。従業員たちは自宅で教師やヘルパーの役割を担わなければならなくなり、さらに社会的な交流ができなったことで平常心が失われそうになっていた中で、それでもお客様の成功のため貢献し続けてくれました。私たちはただ身を潜めて嵐が過ぎ去るのを待つのではなく、前に進み、人々を助けるため自ら行動したのです。

立ち止まる時間はない

COVID-19 のパンデミックが多くの産業を停滞させた一方で、ソフトウェア産業の前進は加速しました。クラウド・コンピューティングや自動化などのテクノロジーは、これまで以上に重要なものとなりました。こういったテクノロジーは今や「あったら良いもの」ではなく「なくてはならないもの」となったのです。企業として Red Hat は、リモートワークのサポートやデジタルサービスの拡大、ニーズに応じたスケーリング、より高い回復力の獲得、イノベーションの継続など、お客様が最も必要とする製品やサービスに目を向けてきました。この 1 年間力強い成長を続けることができたのは、この戦略のおかげであり、勢いを維持できたことについてチームをとても誇りに思っています。

お客様が場所を問わずあらゆるアプリを開発、展開できるようにする、という我々の揺るぎないテーマを体現した重大発表を昨年公表しました。お客様は、目の前の仕事に適したプラットフォーム上で革新的なテクノロジーを使用するための選択肢と柔軟性を求めており、私たちはそれを提供できるよう努めています。 Red Hat OpenShift は業界をリードするエンタープライズ向け Kubernetes プラットフォームであり、オープン・ハイブリッドクラウドで一貫して管理されたコンテナと仮想化がお客様の運用を維持しつつ、新製品やサービスをより早く市場に投入できるようになるという未来の形を表しています。 

ベアメタルから大手パブリッククラウドプロバイダーまで、ハイブリッドクラウド全体で企業が Kubernetes クラスタを一貫して制御できるようにするために設計された新しい管理ソリューション、Red Hat Advanced Cluster Management for Kubernetes を発表しました。 

どこでもデプロイできるようになったら、今度は混在するワークロードをまとめる必要がありますが、その時に活躍するのが OpenShift Virtualization です。Red Hat OpenShift の統合コンポーネントである OpenShift Virtualization は、クラウドネイティブのサービスと併用して従来のワークロードを管理する機能をお客様に提供し、既存の投資を維持しながら将来に備えることを可能にします。これにより、イノーべションを遅らせて顧客体験に影響を与えるテクノロジーサイロを打破することができます。 

より高レベルのサポートをご希望のお客様にご用意しているのが OpenShift Dedicated で、これは AWS、Google Cloud Platform、Microsoft Azure に向けた Red Hat OpenShift のフルマネージドサービスです。Red Hat は、インフラストラクチャ管理の複雑さを軽減しつつもエンタープライズ向け Kubernetes のメリットをフル活用したいと考えている組織に向けて、このマネージドサービスの機能を強化し、改良し続けています。これにより企業の IT チームは、インフラストラクチャに意識を取られることなく、次世代アプリケーションの構築と拡大に集中できるようになるでしょう。

オープンソースの利点の 1 つは、オープンソース・コミュニティで誕生するイノベーションとの密接な関係性です。オープンソース・コミュニティでは常に新しいアイデアやコンセプトが生まれ、育まれています。ここでは IT の未来を垣間見ることができ、またトレンドが進化していく様子を直に見てとることができます。こういった関係性があるからこそ、私たちはオープン・ハイブリッドクラウド・コンピューティングの限界を超えることができたのです。そして現在はエッジ・コンピューティングを押し進めていくための跳躍台を提供しています。エッジ・コンピューティングにより管理者や開発者は独自の課題に直面することになるため、Red Hat Enterprise Linux と Red Hat OpenShift に新たな機能を提供 し、ハイブリッドクラウド・デプロイメントにエッジ・コンピューティングを導入できるようにしました。 

共に協力しあうということ

Red Hat はチャネルなしには成り立ちません。パートナーエコシステムがなければ、Red Hat はまったく別の会社になっていたでしょう。独立を維持しながら、Amazon、Google、IBM、Microsoft などの幅広いクラウド/サービスプロバイダーにまたがる仕事をこなしてきたからこそ、今の成功があるのです。「行動は言葉よりも雄弁である」という言葉があります。Red Hat の中立性は決して変わることのないものであり、それは私たちの今年の行動に見ることができます。

Red Hat と Microsoft は長年にわたりハイブリッドクラウド・ソリューションの共同開発に取り組んできましたが、その結果、最終的に Azure Red Hat OpenShift を誕生させることができました。これは、主要なパブリッククラウド上では業界初となる共同設計、共同管理および共同サポートの OpenShift サービスです。今年も引き続き、パブリッククラウド上のエンタープライズ向け Kubernetes サービスのリーディングカンパニーとして、 Azure Red Hat OpenShift on OpenShift 4 に取り組み、Red Hat Enterprise Linux CoreOS の柔軟性と共に Kubernetes Operators の力を Azure にもたらしていきます。

何度も言ってきましたが、オープンソースとは選択肢の提供という意味でもあり、お客様がどのクラウド・プラットフォームを選択しても、寄り添うことができるという意味なのです。そういった思いを胸に、パブリッククラウドへの取り組みを継続し、共同管理および共同サポートのエンタープライズ向け Kubernetes サービス、 Red Hat OpenShift Service on AWS も誕生させています。Red Hat OpenShift は現在、世界最大級のクラウド 2 つで共通の Kubernetes サービスとなっていますが、運用の柔軟性やサービスレベルを犠牲にすることなく、お客様が最も納得のいく場所で OpenShift を利用できるようになったということが最も重要な成果です。 

また、IBM による買収が実現したことにより、世界規模のよりパワフルなソリューションに向けて規模を拡大し、協力していくことになるでしょう。 Schlumberger との協働はそうしたことを象徴するできごとの 1 つです。IBM とのコラボレーションで、Red Hat OpenShift 上に構築された IBM のハイブリッドクラウド・テクノロジーを提供することにより、Schlumberger のビジネスをサポートし、クラウドベースの探査・生産環境とコグニティブ・アプリケーションへのグローバルなアクセスを同社の従業員に提供することが可能になります。 

これから目指す先

新年に入りたった 1 カ月程度ですが、既に今年の方向性が見えています。エッジ・コンピューティングであれ、サーバーレスまたは Kubernetes であれ、すべての道はオープン・ハイブリッドクラウドにつながっています。それこそが Red Hat が築き上げてきたものであり、今後フォーカスし続けていくものなのです。10 年近くオープン・ハイブリッドクラウドについて話し続けていますが、それはこれが単なるトレンドではなく、企業にとって必要不可欠なものだからです。Red Hat はハイブリッドクラウドを通してイノベーションの最先端に立ち続け、そしてハイブリッドクラウドを通してお客様が動的な課題を解決するためのサポートを提供します。

Red Hat は、Kubernetes ネイティブのセキュリティにおけるリーダーでありイノベーターである StackRox を買収する意向を発表しました。この取引が完了すると、OpenShift にすでに存在する Kubernetes のネイティブコントロールを拡張、改善させる一方で、コンテナビルドや CI/CD のフェーズにセキュリティを移行させることで、クラウドネイティブのワークロードのセキュリティを強化することができるようになります。 

セールスおよびサービスの戦略とテクノロジーのビジョンをシームレスに統合するというのは、Red Hat の成功において不可欠であり、そのためには適切なリーダーが必要です。10 年近くもの間、Arun Oberoi (アルーン・オベロイ) がチームを率い、戦略的買収や新たな提携を通じて拡大するオープン・ハイブリッドクラウドのポートフォリオに合わせて Red Hat の市場開拓アプローチを変革してきました。同氏は今年退職する予定ですが、Larry Stack (ラリー・スタック) がグローバルセールス & サービスのエグゼクティブバイスプレジデントに就任することになりました。私が最も評価している点は、彼が Red Hat の文化を体現し、常に顧客を重視しているという点です。私たちの前にはチャンスが広がっています。規模を拡大し続けていく中、ラリーの豊富な経験と戦略的思考がそのチャンスをつかむために役立ってくれると確信しています。

2020 年が過ぎたからといって、ビジネスが元通りに戻るわけではありません。パンデミックは今もなお世界中に影響を与えており、組織もそのしわ寄せを受けています。課題がなくなることはありませんが、私たちは強い回復力を備えており、これは今後も失ってはいけない能力です。2021 年は多くの未知数を抱えていますが、私たちが進むべき道はとてもクリアに見えています。 


執筆者紹介

Paul Cormier is Chairman of Red Hat. He has been with the company since 2001 and previously served as President and Chief Executive Officer. During his tenure, he has driven much of the company’s open hybrid cloud strategy, playing an instrumental role in expanding Red Hat’s portfolio to a full, modern IT stack based on open source innovation.

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