エッジコンピューティングの活用例:宇宙

データセンターから数百万マイル離れた宇宙空間

地球から遙か彼方で活動する宇宙飛行士は、重要な決定を迅速に下す必要があります。大気や表面の状態は実験に適しているだろうか?月面上で、燃料に転換できる氷がありそうな場所はどこだろうか?宇宙飛行士にどのような医療処置が必要だろうか?オンボード装置や船外活動 (EVA) 用スーツに不具合の兆候はないだろうか?

時間は、1 秒たりとも無駄にすることはできません。しかし、宇宙空間にあるセンサーのデータを分析のために地球に送信すると、長い時間がかかります。1 回の温度測定データを月から地球まで送信するには 5 - 20 分を要します。火星探査車パーシビアランス (Perseverance) が送信した高解像度画像は到着までに 2 日間かかりました。高解像度スペクトル分析なら途方もなく長い時間がかかります。 

解決策:人工知能をエッジに導入してローカルで意思決定を行う

NASA とその請負業者は、エッジコンピューティングを活用して宇宙での意思決定を加速しています。データは地球に送り返すのではなく、データの生成元の近くで処理します。宇宙船やサテライトに搭載されたコンパクトなエッジデバイスがセンサーデータ (画像、ガス、コアサンプリング) を取り込み、機械学習 (ML) モデルを実行して、通常数秒から数分でその場でイエスかノーの判断を行います。

これまでは、宇宙ステーションやサテライト上の物理的空間や、搭載できる電力および冷却リソースが極めて限られるということが、宇宙空間でのエッジコンピューティングの利用における障壁となっていました。しかし今では、ほぼ無限に利用できるクラウドリソースに慣れているデータサイエンティストがコードの開発方法の見直しを行っています。

Red Hat のアプローチ

Red Hat® プラットフォームを利用すると、NASA とその請負業者は、宇宙ステーションとサテライト上のスペース、電力、冷却、接続性の制約に基づいて、エッジハードウェアを組み合わせることができます。その際の選択肢にはリモートワーカーノードや 3 ノードクラスタなどが含まれます。 

まずは、ML モデルを Red Hat OpenShift® 上に構築します。Red Hat OpenShift にはオペレーティングシステム、ツール、ライブラリなど、その実行に必要なすべてのものがコードとともにパッケージされています。コンテナ化されたアプリケーションを宇宙で活用するメリットの 1 つはそのサイズにあります。通常、仮想マシンの場合は数ギガバイトになるのに対し、数メガバイトのサイズが想定されます。もう 1 つのメリットは可搬性です。調査担当員が ML モデルを開発したら、エッジ、クラウド、またはその両方 (ハイブリッドモデル) にある、どのハードウェアにもデプロイできるようになります。他の科学者はレビュー時に、オペレーティングシステム、ライブラリ、システム構成によらず、どのプラットフォーム上でも結果を再現することができます。

宇宙空間内の多様なセンサーからデータを取り込むには、Red Hat AMQ Streams を使用します。Red Hat OpenShift Serverless はセンサーデータに基づいてアプリケーションをスケールアップまたはスケールダウンします。データが送られてこないときは、Red Hat Ansible® Automation Platform はモデルをオフにして電力と冷却を節約します。センサーデータがストリーミングを再開すると、Ansible Automation Platform はパフォーマンス目標を達成するために適切な数のモデルのインスタンスをスピンアップさせます。

Red Hat は NASA のミッションのサポートに必要なサポートを年中無休で提供しています。また、オープンソースコミュニティのソフトウェアを配信する前には、徹底的なテストを行っています。さらに Red Hat のエンジニアが機能、信頼性、セキュリティを継続的に改善して、宇宙のようなリスクが高い環境でもソフトウェア・インフラストラクチャの安定性を維持します。

Red Hat の活用例:国際宇宙ステーション (ISS) 

課題:ISS に搭乗しているミッションスペシャリストは、その表面や水中の微生物を調査して、飲料水としての水質の安全性の評価を行います。DNA シーケンシングの結果を地球に送信して分析すると、数週間かかります。 

解決策:NASA は、ISS 上で実行されるコンテナ化された ML アプリケーションによって、調査を加速しています。Red Hat Enterprise Linux® を実行する Hewlett Packard Enterprise (HPE) コンピュータの PoC は 2017 年から 2019 年にかけて実施されました。2021 年 2 月、NASA は Spaceborne Computer-2 を ISS に送り出しました。このコンパクトなエッジデバイスは、単一ノードの OpenShift クラスタである Red Hat CodeReady Containers を実行します。開発者は地上でコードを作成し、ISS へと送信します。エッジ解析の結果は ISS 要員がすぐに確認でき、地上の科学者にも転送されます。 

結果:NASA では、Spaceborne Computer-2 と CodeReady Containers の利用により、 DNA シーケンシングのオンボード実験およびその他のセンサーデータ分析から知見を得るまでの時間を数カ月から数分に短縮できると見込んでいます。このプロジェクトから得られた経験は、月への再上陸を目指すアルテミス計画など、NASA が深宇宙のさらなる探査に向けた準備に役立ちます。ISS のエッジコンピューティング・ソリューションの詳細をご覧ください。 

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