人工知能 (AI) という概念は新しいものではありませんが、関連テクノロジーの最近の進歩によって、AI は現実的というよりは仮説的なものから、私たちの多くが日常的に使用するツールへと変化してきました。AI の重要性の高まりと普及は、刺激的なものですが、多くの AI ツールの基盤は基本的に少数の強力な企業が所有し、制御するブラックボックスのようなものなので、潜在的に憂慮すべき事態にもなり得ます。

Red Hat は、誰もが AI に貢献することができなければならないと考えています。AI のイノベーションは、膨大な量の処理能力を備えており、増大する大規模言語モデル (LLM) のトレーニングに必要な専門のデータサイエンティストを抱える企業に限定されるべきではありません。

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Red Hat はオープンソースの数十年にわたる経験を、AI ツールとフレームワークの開発に応用しています。これにより、誰もが AI に貢献し、AI のメリットを享受できるのと同時に、AI の未来と進化を形作ることが可能になります。Red Hat では、オープンソースのアプローチこそが、AI の潜在能力を最大限に引き出し、安全で利用しやすく民主化する唯一の方法であると考えています。

オープンソースとは

「オープンソース」という用語は、本来はソフトウェア開発の手法を指すものでしたが、その後は、オープンで、分散化され、真に協調的な、より一般的な働き方を含む意味に拡張されました。オープンソース運動は現在、ソフトウェアの世界をはるかに超えて広がり、科学、教育、政府、産業、医療など、世界中の協業において The Open Source Way (オープンソースウェイ) が実践されています。

オープンソース文化には、効果的かつ影響力のあるものにしている基本原則と価値観があります。それには次のようなものがあります。

  • 協調的な参加
  • 責任の共有
  • オープンな意見交換
  • 能力主義と包括性
  • コミュニティ指向の開発
  • オープンコラボレーション
  • 自己組織化
  • 尊重と相互性

オープンソースの原則を協業による取り組みの基盤にすると、非常に多くのことが可能になることを、歴史は示しています。代表例としては、世界で最も強力で、ユビキタスなオペレーティングシステムとしての Linux の開発と普及、Kubernetes とコンテナの登場と成長、さらにはインターネットそのものの開発と拡張などがあります。

オープンソースと AI

では、オープンソースの手法はこの新たな AI の時代と関連があるのでしょうか。

Red Hat は、「もちろん関連がある」と考えています。ここでは、なぜ Red Hat がこのように考えるのかについて掘り下げて説明します。

AI の時代におけるオープンソースの 6 つの利点

実際には 6 つ以上の利点がありますが、最も重要な利点から見ていきましょう。

1.イノベーションのスピードアップ

閉鎖的な組織やプロプライエタリーのソリューションとは異なり、テクノロジーがオープンな方法で協調的に開発されている場合、イノベーションや発見をより迅速化できます。

作業がオープンに共有され、他のメンバーが元の作業をベースに新たなプロジェクトを構築できる場合には、チームが新しいプロジェクトごとに最初の原則から始める必要がなくなるので、膨大な時間と労力を節約できます。新しいアイデアは、以前のプロジェクトをベースとしてさらに発展させることができます。これにより、時間とコストを節約できるだけでなく、より多くの人々が協力して問題を解決し、知見を共有し、互いの作業を確認することで、結果を強化することもできます。

より大規模で協調的なコミュニティは、より多くのことを達成できます。より多くの人々が複雑な問題を解決するために協力できると、単独で活動する小規模でサイロ化されたグループよりも迅速かつ効果的にイノベーションを実現することができます。

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2.アクセスの民主化

オープンソースは、このような新しい先進 AI テクノロジーへのアクセスを民主化します。研究、コード、ツールがオープンに共有されれば、最先端のイノベーションへのアクセスを制限する障壁のいくつかを取り除くことができます。

この代表的な例として、InstructLab プロジェクトがあります。InstructLab は、LLM にスキルと知識を提供するプロセスを単純化する、モデルに依存しないオープンソースの AI プロジェクトです。このプロジェクトの目標は、通常必要となるデータサイエンスのスキルやトレーニングをされていない人々を含む、あらゆる人が生成 AI (gen AI) を形作ることに貢献できるようにすることです。これにより、より多くの個人や組織が信頼できる方法で LLM のトレーニングと改良に貢献できるようになり、次のことにつながります。

3.安全性、セキュリティ、プライバシーの向上

オープンソース・プロジェクトは新規参入の障壁を低減するので、より広範で多様なコントリビューターのグループが、開発中の AI モデルにおける潜在的な安全性やバイアスの問題を特定し、解決するのを支援できます。

クローズド AI モデルのトレーニングと微調整に使用されるデータと手法はプロプライエタリーであり、厳重に保管されています。これらのモデルがどのように機能するか、また、潜在的に危険なデータやバイアスが含まれていないかについて、部外者が知見を得ることはほとんど不可能です。

しかし、モデルとそのトレーニングに使用されるデータがオープンであるなら、参加したい人は誰でもそれらを調査できるので、潜在的な危険が減少し、バイアスを最小限に抑えることができます。さらに、オープンソースのコントリビューターは、将来のモデルやアプリケーションの開発を追跡し、監査するためのツールやプロセスを作成し、長期にわたって安全性を向上させ、維持することができます。

また、ユーザーは自らのデータがどのように使用され、処理されているかを直接確認できるため、このオープン性と透明性により、信頼を構築し、プライバシーとデータ主権が尊重されていることを確認できます。

最後に、企業は InstructLab などのオープンソース・プロジェクトを使用して独自の微調整されたモデルを作成し、厳格な管理を維持することで、プライベートなデータ、機密データ、またはプロプライエタリーデータを保護することができます。

4.柔軟性と選択の自由を実現する

生成 AI については、ほとんどの人が目にし、考えているのはモノリシックでプロプライエタリーなブラックボックスの LLM ですが、私たちはより小型で独立した専用の AI モデルを求める傾向が強まっていることを目にしています。

このような小規模言語モデル (SLM) は、通常は、より小規模なデータセットでトレーニングされ、基本機能が付与され、ドメイン固有のデータと知識を使用して特定のユースケース向けにさらにカスタマイズされます。

この SLM は他の大規模な SLM よりもはるかに効率的であり、意図した目的のために使用される場合には同等の (それ以上ではなくても) パフォーマンスを発揮することが確認されています。これらについては、トレーニングとデプロイをより迅速かつ効率的に実行でき、必要に応じてカスタマイズして適合させることができます。

InstructLab プロジェクトは主にこれを実現するために設計されています。InstructLab を使用すると、IBM の オープンソース Granite モデルのような小規模なオープン AI モデルを採用して、任意の追加データやトレーニングで拡張できます。

たとえば、InstructLab を使用して、高度にチューニングされた専用のカスタマーサポートチャットボットを作成できます。このチャットボットは、社内知識とベストプラクティスを使ってトレーニングされるため、場所を問わず、誰もが最高のカスタマーサービス体験を提供できます。

またさらに重要なのは、ベンダーロックインを回避できるため、AI モデルとその上に構築されるアプリケーションのデプロイ場所と方法を柔軟に選択できます。

5.活発なエコシステムを構築する

Red Hat は、「イノベーションは 1 人では起こせない」と考えており、Red Hat Enterprise Linux (RHEL) を最初にリリースして以来、この信念を貫いてきました。その信念の大部分は、当社のパートナーが (Red Hat だけでなく Red Hat のお客様に対して) 提供してきた多大な価値によって支えられています。

AI の時代においても、引き続きこの点は変わりません。Red Hat は Red Hat AI という形で一連のオープンソースツールとフレームワークを提供しており、パートナーはこれらを土台としてお客様に付加価値を提供しています。また、これらがすべて可能になるのは、Red Hat がオープンな方法で運営し、アップストリーム・プロジェクトや世界中の研究者、企業、パートナーと協力し、コラボレーションしているからです。

単独で組織が必要とするものすべてを提供でき、現在のテクノロジー進化の速さについていくことのできるベンダーは存在しませんし。オープンソースの原則とプラクティスは、プロジェクトや業界を越えてパートナーシップとコラボレーションの機会を促進することにより、イノベーションを加速し、活発なエコシステムを実現します。

6.コストを削減する

2025 年初頭には、米国のデータサイエンティストの平均的な基本給は 125,000 ドルを超えるものと推定されています。さらに経験を積んだ上級のデータサイエンティストは、さらに多くの報酬を得ることができます。

明らかに、AI の能力と普及が爆発的に拡大するにつれ、データサイエンティストに対する需要は膨大かつ増加傾向にありますが、必要な専門人材を引き付け、維持できると期待できる企業はほとんど存在しません。

さらに、本当に大規模な LLM を構築するには、構築、トレーニング、維持、デプロイに途方もなく高いコストがかかり、高度に最適化された (非常に高価な) コンピュータ機器と膨大な量のストレージで一杯になったウェアハウス全体が必要になります。

オープンで小規模な専用のモデルと AI アプリケーショは、構築、トレーニング、デプロイにおいて効率を大幅に向上させます。LLM のごく一部のコンピューティング能力しか必要としないだけでなく、InstructLab のようなプロジェクトにより、特殊なスキルや経験を持たない人々でも AI モデルのトレーニングや微調整に積極的かつ効果的に貢献することが可能となります。

オープンソースが AI 開発にもたらすコスト削減と柔軟性は、AI アプリケーションがもたらす競争上の優位性を獲得したいと考えている中堅および中小企業にとって有益であることは明らかです。

まとめ

Red Hat では、クラウド・コンピューティング、インターネット、Linux など、非常に多くの強力で革新的なオープン・テクノロジーをもたらしたのと同じコミュニティと共に、オープンの原則を使用して AI を構築することが不可欠であると考えています。

Red Hat の AI 製品戦略が目指す方向性はまさにここにあります。Red Hat は常に、製品とプロジェクトにおいてオープンソースの力を活用してきましたが、AI においても同様の取り組みを進めています。

あらゆる人が AI のメリットを享受できるべきであり、誰もが AI の軌道を見定め、それを形作る過程に関与し、その開発に貢献できるようにすべきです。オープンソースとコラボレーションによるイノベーションは、AI の将来に不可欠であり、AI がすべての人にとって利用可能で、有益であり続けるようにするためにも欠かせません。

リソース

未来を切り拓く:絶え間ないイノベーションの時代に対応するためのエグゼクティブ向けガイド

Red Hat のオープン・ハイブリッドクラウド・プラットフォームは、絶え間ないイノベーションと破壊的革新の時代を乗り切れるように組織を支援します。その詳細をご覧ください。

執筆者紹介

Deb Richardson joined Red Hat in 2021 and is a Senior Content Strategist, primarily working on the Red Hat Blog.

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