概要
最も簡単に言えば、IT モダナイゼーションは、現在および将来のビジネス目標をより適切にサポートするために、組織の古い IT インフラストラクチャの一部または全部を更新するプロセスです。これは単純に思えるかもしれませんが、ソフトウェアもハードウェアもすぐに時代遅れのものになってしまう可能性があるため、モダナイゼーションはさまざまな業界において、企業の大小を問わず、継続的かつ複雑なプロセスになります。
IT モダナイゼーションは企業ごとに異なる
IT モダナイゼーションの中心的な概念と課題には、次のようなものがあります。
- 技術的負債:IT モダナイゼーションの大部分は技術的負債の軽減です。古いアプローチ (通信プロバイダーが非分散型ソフトウェアを使い続けている、金融サービスプロバイダーが古いメインフレームでプロセスを実行しているなど) の場合、より先進的なアプローチに比べてコスト効率が低くなります。技術的負債に関する課題は、新しいアプローチへの移行にかかる初期コストと、より先進的なアプローチを使用することで得られる節約とのバランスを取ることです。
- 組織の知識:たとえレガシーシステムが順調に稼働しているとしても、そのシステムの稼働を維持するための訓練を受けた IT プロフェッショナルは高齢化し、退職する可能性があります。こうしたレガシーシステムが新たに導入されることはないため、そのようなシステムを扱えるスキルを持った後任を見つけるのは困難な場合があります。
- 先進的なアジリティ:レガシーシステムの中には安定したビジネス環境を提供するものもあるでしょうが、先進的なシステムのように迅速に拡張する機能はありません。レガシーシステムは、意図したとおりに動作するものであっても、クラウドネイティブ環境やハイブリッドクラウド環境を最大限に活用することはできません。
Red Hat のリソース
IT モダナイゼーションの課題の業界例
各企業が使用するレガシーシステムは、その企業の成長過程に応じた固有のものであるため、IT モダナイゼーションのプロセスは組織や業界によって異なります。たとえば通信サービスプロバイダーの場合、時代遅れの IT システムは、今日の市場での存続に影響を与える可能性のある重大な問題です。
このようなプロバイダーの IT アーキテクチャは、数十年にわたって進化してきたさまざまなテクノロジーやプロセスが接続していないため、複雑で柔軟性に欠けています。合併、買収、売却によりこの複雑さは増すばかりで、クラウドネイティブ・アプリケーションや 5G ネットワークなどの新たなテクノロジーの価値を最大化するために必要なアジリティと機能を提供することが困難になっています。
さらに、時代遅れのテクノロジーの多くが依然として重要サービスを提供しており、熟練したエンジニアは徐々に退職の年齢に近づいており、埋めることのできない知識のギャップが生じています。
今日の市場で競争に勝ち抜くために、サービスプロバイダーは IT システムをモダナイズする必要があります。しかし、IT モダナイゼーションとは、単に古いテクノロジーを新しいテクノロジーに置き換えることではありません。これは、ビジネスの持続可能なデジタル・トランスフォーメーションのための強固な基盤を構築する機会でもあります。通信事業者が競争力を維持し、変化する市場環境に適応するには、IT モダナイゼーションが不可欠です。
IT モダナイゼーションを成功させるための計画の手順
IT インフラストラクチャのモダナイゼーションは、今日の市場で競争力を維持するための重要な一歩です。しかし、組織ごとに技術的負債が異なるため、成功を保証する IT モダナイゼーションの手順は 1 つではありません。とはいえ、IT モダナイゼーションのイニシアチブを策定する際には、いくつかの基本原則を念頭に置く必要があります。IT モダナイゼーションを開始するための手順をいくつか以下に示します。
レガシーシステムを分析する:まず、レガシーシステムおよびアプリケーションを慎重に分析して、日常業務を遂行するために引き続き必要なものを特定します。中断は避けるべきなので、レガシーシステムのモダナイゼーションに利用できる選択肢を検討してください。これには、新しい機能の追加、システムを完全に更新するためのリファクタリング、システムの廃止と完全に新しいソリューションへの置き換えなどがあるでしょう。
インフラストラクチャ・プラットフォームを単純化する:エンドユーザーにインフラストラクチャを (セキュリティ、管理の容易さ、新しいテクノロジーを導入できる柔軟性を損なうことなく) より迅速に提供するには、まずオペレーティングシステム (OS) からインフラストラクチャ・プラットフォームを単純化します。OS と自動化プラットフォームを標準化することで、どこでワークロードを実行するかに関係なく、それらを一貫して運用し、管理できるようになります。プラットフォームの単純化は、次のことを実現するために役立ちます。
- IT 環境全体の一貫性とプラットフォーム間でのワークロードの可搬性が向上し、クラウド、オンプレミス、コンテナ、ネットワークエッジなど、現在および将来のデプロイメントを改善
- 信頼できるプラットフォーム上に構築することで、強力なセキュリティポスチャを確立
- 一貫したプラットフォームとツールを使用することで、スキルギャップを解消し、運用効率を高め、イノベーションに集中するための時間を確保
これらの手順に従うことで、IT モダナイゼーションの成功に向けて取り組み、持続可能なデジタル・トランスフォーメーションのための強固な基盤を構築することができます。
IT モダナイゼーションを実装するための戦略
問題領域を明らかにし、IT 環境のモダナイゼーションを開始したら、先進的なテクノロジーの実装に役立つ具体的かつ総合的な戦略がいくつかあります。
IT モダナイゼーションにおけるセキュリティの更新
IT モダナイゼーションの計画を実行する際には、システムとデータの保護に役立つセキュリティ機能を考慮することが重要です。注目すべきセキュリティ機能は以下のとおりです。
- システムへの簡単なパッチ適用:複数のシステムに定期的に一度にパッチを適用することで、迅速にシステムを保護し、コンプライアンス要件に従うことができます。
- タスクの自動化:プロビジョニング、パッチ適用、コンテンツ管理などの一般的なタスクを自動化することで、各チームが戦略的なプロジェクトに集中できるようになります。
- システムレベルのリスク分析:規範的な分析や修復ガイドラインと併せて、各システムに影響を与えるリスクのより高度な分析を検討します。
- 脆弱なシステムの特定:環境内でセキュリティ、構成、およびパフォーマンスのリスクの影響を受けるシステムの数、どのシステムが影響を受けるかを特定します。
- 組織レベルのリスク評価:より高いレベルでの検証は、組織に対する潜在的なリスクと実際のリスクの両方を自動的に評価するのに役立ちます。
- 脆弱性の迅速な修復:既知のセキュリティ脆弱性を自動的に修復し、侵害にさらされるリスクを軽減できます。
- セキュリティとコンプライアンスのレポート:カスタマイズされた詳細なレポートを生成して関係者に最新情報を提供し、セキュリティ・コンプライアンスの監査を容易にすることができます。これは、連邦機関によって厳しく規制されている業界では特に重要です。
- セキュリティ制御の適用およびメンテナンスの自動化:システムをスキャンし、セキュリティ制御を自動的に適用することで、規制と企業ポリシー両方へのコンプライアンスを単純化できます。
ハイパーオートメーションの導入
組織が運用の革新と効率化を求める圧力に直面し続ける中、ハイパーオートメーションが重要な目標として浮上しています。ハイパーオートメーションとは、可能な限り多くのプロセスを自動化し、人工知能 (AI) や機械学習 (ML) などの高度なテクノロジーを従来の自動化ツールと統合して、より包括的で効率的な自動化フレームワークを作成することです。
サービスプロバイダーは自動化を、独立したタスクベースのシステムを超えて拡張し、組織の境界やネットワークドメインを超えて実装することで、運用効率を大幅に向上させることができます。たとえば、数百のネットワーク機能のデプロイを自動化し、数千のネットワークデバイスを管理することで、新しいサービスをより迅速に市場に投入し、運用コスト (OpEx) を削減できます。実際、組織全体でプロセスをエンドツーエンドで自動化すると、OpEx を削減できるだけでなく、注文から納品までにかかる時間が短縮され、最終的には収益が得られるまでの時間を短縮できます。
しかし、ハイパーオートメーションを実現するには、サービスプロバイダーがすでに使用しているツールやテクノロジーと統合する、より包括的な自動化アプローチが必要です。強化された自動化プラットフォームはこの統合を実現し、サービスプロバイダーがネットワークエッジからコアに至るまで、プライベートクラウド環境とパブリッククラウド環境にわたってプロセスを自動化できるようにします。これにより、企業は変化するビジネス要件に迅速に適応できる、よりスケーラブルで柔軟な自動化フレームワークを実現できます。
ハイパーオートメーションは運用の未来であり、プロバイダーのビジネス目標の達成を支援する、より包括的で効率的な自動化フレームワークを提供します。既存のツールやテクノロジーと統合する、強化された自動化プラットフォームを実装することで、運用を効率化し、コストを削減し、収益を増やすことができます。
クラウド移行の導入
企業がデジタル・トランスフォーメーションを進めるにあたり、パブリッククラウドのニーズを満たすために、Amazon Web Services (AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud などのハイパースケーラーに頼ることがよくあります。インフラストラクチャ・リソースをオンデマンドで利用でき、ハイパースケーラーが提供する従量制の価格設定も利点であることから、組織はすでに複数のパブリッククラウドサービスを活用しており、戦略的計画、シャドー IT、またはその両方を組み合わせてインフラストラクチャの要件を満たしています。しかし、ハイパースケーラーを総合的な戦略に効果的に組み入れるには、CIO などのビジネスリーダーが次の点を慎重に評価しなければなりません。
- ハイパースケーラーのインフラストラクチャがアプリケーションやサービスの要件を満たすかどうか。
- ストレージ、ネットワーク、その他のサービスを追加した後、パブリッククラウドサービスからコストとアジリティのメリットを実際に享受できるかどうか。
- 機密性の高いビジネスデータなどの戦略的資産をプライベートクラウドに移行するべきか、または残しておくべきか。
- ワークロードをプライベートクラウドまたは別のパブリッククラウドに簡単に移行できるかどうか。
- DevOps や DevSecOps の手法でよりアジャイルな運用と文化を促進し、顧客により多くの価値を提供するために、ハイパースケーラーのサービスの利用を最適化できるかどうか。
IT モダナイゼーションにおけるスキルギャップの解消
Red Hat レポート:エンタープライズ向けオープンソースの現状によると、社内のスキルギャップは依然として、デジタル・トランスフォーメーションと IT モダナイゼーションの大きな障害になっています。これは、Kubernetes に関する専門知識など、先進的な IT 環境の運用に必要な重要スキルが欠如しているためです。
パートナー組織およびツールの強力なエコシステムにアクセスできれば、スタッフと開発リソースを迅速に増強し、先進的なクラウドネイティブのメリットを活用できます。
IT モダナイゼーションになぜ文化的変革が必要なのか
企業がアジャイルなプロセスおよび統合を進化させ続けるには、文化的変革を優先する必要があります。アジャイル開発サイクルには、新たな計画方法と実行方法を必要とする、反復的かつ継続的でスケーラブルなアプローチが必要です。しかし、この新しい作業方法をサポートするために必要な文化的変革は、どんな組織にとっても困難なものになる可能性があります。
相互につながっている今日のデジタルビジネスの世界で成功を収めるには、透明性、コラボレーション、包括性、適応性の向上が不可欠です。組織はこうした文化的変革を実現するために、データとアプリケーションの迅速な統合のほか、DevOps、アジャイル、クラウドベースのコンピューティング手法を活用できます。
まずリーダーシップから始め、組織の戦略目標とデジタル化への取り組みにおけるアジャイル手法のメリットについて IT チームを教育します。次に、このアプローチの利点を実証できる、小規模で明確に定義されたプロジェクトに取り組みます。プロジェクトが成功すると、プロセス変更に対する組織全体のサポートを強化できます。
IT モダナイゼーションを実行する組織と CIO がアジャイルなプロセスと手法を導入しなければ、IT モダナイゼーションの取り組みの成功は難しくなります。
IT モダナイゼーションに対する Red Hat の支援
Red Hat は相互にサポート、統合、補完するさまざまなオープンソース・ソリューションを提供し、サービスプロバイダーが強固な IT 基盤を確立できるよう支援します。この基盤は、自動化し、適応し、セキュリティに重点を置き、柔軟性とアプリケーションおよびワークロードの可搬性をもたらすハイブリッドクラウド環境を実現するためのツールを提供します。
Red Hat のツールスイートを使用することで、開発者はアプリケーション開発とイノベーションのプロセスを簡単に加速できます。これは、ビジネスと運用のアジリティを高めるために、シンプルさを重視して設計されています。また、セキュリティは最優先事項です。Red Hat ソリューションは、セキュリティ侵害のリスクを軽減し、要求される規制へのコンプライアンスを単純化するためのツールを提供します。
Red Hat ソリューションが IT モダナイゼーションの課題を解決
Red Hat ソリューションで IT をモダナイズすることで、以下のような重要な課題を解決できます。
- 組織の IT プラットフォームを単純化して、より一貫したエクスペリエンスを実現する。
- クラウドネイティブ開発を可能にする統合アーキテクチャを提供する。
- IT インフラストラクチャの大規模な自動化を可能にする IT 自動化プラットフォームを提供し、一貫性がありコンプライアンスに準拠した構成および環境の管理によってリスクを低減する。
- IT ワークロードのクラウドへの移行を単純化する。
- 組織の IT インフラストラクチャ、開発スタック、ライフサイクル全体で完全に統合されたセキュリティ対策を支援する。
- チームが先進的な IT 環境で効果的に働くことができるようになるための広範なトレーニングパスを提供する。
IT モダナイゼーションの取り組みの実施に役立つ主な Red Hat ソリューションは、以下のとおりです。
- Red Hat® Enterprise Linux® と Red Hat® OpenShift® は、IT モダナイゼーションに向けた取り組みを開始するための基盤を提供します。
- Red Hat® Ansible® Automation Platform は、IT タスクの自動化と、API 中心のソリューションを通じた有益な洞察の獲得を可能にします。
- Red Hat トレーニングと認定は、パートナーシップやトレーニングパスを通じて、社内開発者のスキルギャップを解消します。
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