概要
レガシーバンキングシステムのモダナイズは、銀行業界のあらゆるセグメントのほとんどの組織が直面している課題です。
安定したレガシーシステムは、想定されている処理は行いますが、現在の市場で求められている種類のデジタルおよびデータの要求に対応するように作られていません。
とはいえ、レガシーシステムから先進的なクラウド・プラットフォームへの移行は困難なプロセスであり、大きなコストとリスクもかかってきます。慎重な移行の試みには、リスクをできるだけ小さく抑える努力が伴います。
この記事では、リスクを抑えながらこのプロセスを加速させる戦略について説明します。
レガシーバンキングシステムが使い続けられる理由
レガシーシステムとは、古くなっても使い続けられているハードウェアとソフトウェアのことを言います。このようなシステムは想定されている処理は行えますが、先進的なテクノロジーの進展を適用するアップデートを行ったり、新しいシステムにアップグレードあるいは統合したりすることはできません。
銀行のケースを見てみると、モバイルアプリや Web サイト、およびそれらの提供するハイエンドな機能の裏では、入金やローンの実際の取引レコードは COBOL を実行するシステムで処理されていたりします。これらのシステムは 1970 年代のシステムとあまり変わらず、何十年にもわたって難解なパッチ修正が適用されてきたものです。
モダナイズしないことの問題
これらのシステムはまだ使用できます。狭い見方をすると、その多くはレジリエンス (回復力) を持ち、信頼できます。であるなら、なぜモダナイズが必要なのでしょうか。
- 統合が難しい:先進的なクラウドネイティブのシステムやソフトウェアパッケージをビジネスに統合する必要が生じた場合、レガシーシステムをこれらと接続する必要がありますが、レガシーシステムは簡単に相互運用できるようには作られていません。
- ベンダーの多様性:銀行業界のレガシーシステムを提供しているベンダーは数が多くありません。これはそれらのベンダーが好きに価格を設定しやすいということでもあります。
- 人材の不足:古いプラットフォームの開発者は退職の年齢に近づいていることが多く、しかも、市場に入ってくる新しい人材で置き換えることもできません。リソースが限られているため、レガシーなハードウェアやソフトウェアに対するビジネス要求にタイムリーに対応していくのは困難です。
- 限定的なエコシステム:レガシーバンキングシステムのアプリケーションエコシステムは限定されているものが非常に多く、新しいベンダーパッケージがなかなか提供されないので、ビジネスのアジリティが阻害されます。
- インタラクションの回数の増加:先進的で完全デジタル化され、相互に接続されたエコシステムを持つ銀行は、より多くのリアルタイムインタラクションを処理します。すべてのレガシーシステムが簡単にこの量を扱えるようスケーリングできるわけではないため、顧客満足度の低下につながります。
こうしたことから、レガシーシステムは拡張するにもアップグレードするにも高額な費用がかかってしまいます。
レガシーシステムを維持する理由
レガシーシステムは長い間、信頼できる働きをしてきました。それを置き換えるには、長期的には節約につながるとはいえ、高額な初期費用が必要になります。ほとんどの銀行組織は、システムをモダナイズする必要性に気が付いています。問題は、それを効果的かつコストを抑えた方法で実行する方法がわからないことです。
Red Hat のリソース
レガシーバンキングシステムのモダナイズに伴うリスクを抑える方法
システム全体を一気にまとめてモダナイズしようとするなら、リスクとコストは大きく跳ね上がります。経年に伴いプログラムのスプロール化は起こりますし、投資対効果 (ROI) を得られるのはかなり先のように感じられます。場合によっては、一度にすべてを行おうとして十分な計画やテストを行わないままアップデートを進めてしまい、古いシステムに逆戻りを余儀なくされて多額の費用が無駄になることもあり得ます。
そのため、銀行システムをモダナイズして先進的なコネクテッドバンキングに移行する際には、ストラングラーパターンのアプローチが重要になってきます。
ストラングラーパターンとは
ストラングラーパターンまたはストラングラーフィグ・パターンのプロセスでは、中間的なファサードを作ってその後ろにレガシーシステムを配置します。
そして、ファサードの反対側に、レガシーシステムを置き換えるサービスを徐々に追加していきます。ほとんどの場合、古いシステムのすべての機能が先進的なシステムで置き換えられ、最終的にファサードが取り除かれます。必要に応じて、レガシーシステムの要素の一部を残すこともできます。

ストラングラーパターンの利点は、新しい先進的なシステムを少しずつビジネスに実装していけることです。これにより全体のプロセスを早く開始できるだけでなく、先進的なシステムの利点によって投資対効果 (ROI) も早くから得ることができます。
レガシーバンキングシステムのモダナイズに対する抵抗で最大のものの 1 つが、移行の複雑性とコストです。しかし複雑な処理を小さな部分に分けて進めていくことで移行のリスクを全体的に抑えることができ、その期間を活用して新しいシステムに関するスキル教育をスタッフに実施することもできます。
ただし、ストラングラーパターンの効果を最大限に発揮させるためには、導入するテクノロジーはクラウドネイティブで、かつハイブリッドクラウド環境向けに設計されたものでなければなりません。
クラウド・プラットフォームがレガシーバンキングシステムのモダナイズをサポート
先進的なクラウド・プラットフォームでサポートされる
マイクロサービスとコンテナは、いくつかの重要な点でレガシーシステムのモダナイズに役立ちます。
- 漸進的な置き換え:コンテナを使うと、新しいコンポーネントを実行する独立した環境を提供できるので、レガシーシステムの機能を徐々に新しいコンポーネントで置き換えていくことができます。これにより、システムの他の部分に影響を与えることなく、レガシーシステムを部分的に少しずつ置き換える作業を、より簡単に進められます。
- 相互運用性:レガシーシステムは時代遅れとなったテクノロジーを必要とすることが多く、そのため他のシステムとの統合にコストや時間がかかってしまいます。クラウド・プラットフォームを使うことで、先進的なフレームワークやランタイムへのアクセスが可能になり、サービス同士をつなぐ際のコストを抑えることができます。
- テスティングの向上:コンテナを使うと、プロダクション環境に近いテスティング環境を簡単に作成できます。これによりテスティングの質が向上し、デプロイ時に問題が発生するリスクを下げることができます。
- デプロイの柔軟性:コンテナはオンプレミスやオフプレミスのデータセンターなど、多様なインフラストラクチャにデプロイできます。この柔軟性によりデプロイのアジリティが向上し、変化するビジネスニーズに対応しやすくなります。
- スケーラビリティ:レガシーシステムは処理量や要求の増加に対応しきれない場合があります。クラウド・プラットフォームを使うと、要求量の変動に対応できるスケーラブルな環境が得られ、高い可用性や応答性を維持しやすくなります。
このように、素早くモダナイズするためには、開発を加速して運用のコストも下げるクラウド・プラットフォームを使用して、漸進的に進めていく必要があります。
Red Hat がレガシーバンキングシステムのモダナイズを支援
Red Hat が提供する先進的なクラウド・プラットフォームでは、レガシーバンキングシステムを小さいコンポーネントに分割することで、漸進的にモダナイズを進めていく際のコストと複雑性を低減できます。
また、Red Hat はマイクロサービスの開発を高速化するクラウド・テクノロジーと、それらのマイクロサービスを保護して、メインフレームをはじめとするあらゆるインフラストラクチャで効率的に運用できるようにするツールも提供しています。そのため、もしモダナイゼーションの取り組みでワークロードをオンプレミスにとどめておく必要があるなら、Red Hat を使うことでその状況に合わせてモダナイズでき、さらに、将来的にワークロードを移行する必要が生じた場合にそうするための道筋を作ることができます。
モダナイズの取り組みにどこから手を付ければいいのかわからない場合は、Red Hat® コンサルティングが選択肢について詳しく説明し、お客様にあったロードマップを作成する支援をします。
銀行のモダナイゼーションに関する課題の解決を Red Hat が支援
Red Hat を利用してモダナイズを行うと、次のような主な課題の解決に役立ちます。
- 組織内で使用されるテクノロジーの種類を単純化して、より一貫した運用エクスペリエンスを実現する
- レガシーシステムからクラウド・テクノロジーへの移行を支援するツールを提供する
- マイクロサービスの開発と提供を加速する統一的なアプローチを取る
- 完全に統合されたセキュリティ手法を、使用しているテクノロジー全体にわたって適用するのを支援する
- チームが先進的な環境で効果的に働くことができるようになるための広範なトレーニングパスを提供する
銀行がレガシーバンキングシステムをモダナイズするのに役立つ Red Hat ソリューションには以下のようなものがあります。
- Red Hat® Enterprise Linux® と Red Hat® OpenShift®:あらゆるインフラストラクチャの全体で実行および運用するための基盤となります。
- Red Hat® Application Foundations:クラウドネイティブ・アプリケーションの提供を迅速化できます。
- Red Hat コンサルティング、トレーニング、認定:パートナーシップやトレーニングパスを通じて、社内開発者のスキルギャップを埋めることができます。
- 主要なエコシステム・パートナーシップ:レガシーシステムと先進的システムの間で機能する重要なつながりを作るのに役立ちます。
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