概要
エッジデバイスとは、ユーザーやデータソースに物理的に近い場所でコンピューティングを実行するネットワーク上のノードです。食料品店の POS (販売時点情報管理) 端末から自動車を組み立てるロボットアームに至るまで、ほぼすべての業界に存在します。
しかし、組織はエッジの重要な課題に直面しています。多くの場合、組織は大量のデータを追跡し、データがデバイスに戻されてアクションが取られる前に、データをコアクラウドに送り返して処理する必要があります。この作業によってプロセスにさらに時間がかかる上に複雑さも増し、運用のスピードが落ちるため、結果としてデータは古く、関連性の低いものになります。
以下のような組織が増えています。
- レイテンシーの影響を受けやすいアプリケーションを必要とする、新しいユースケースを実装したいと考えている
- 大量のデータを処理する必要があり、パブリッククラウドへのデータの送信に時間がかかっている
- 進化する競争と顧客の期待に対応するために、迅速な意思決定を行えることが必要である
こうした新たな課題に直面している組織では、リアルタイムのデータ分析と人工知能 (AI) を使用して、インテリジェントな意思決定をエッジでより迅速に行うためのソリューションが必要です。
ユースケース:エッジでインテリジェントな意思決定を行う AI
リアルタイムのデータ処理とインテリジェントな意思決定が大きな違いを生む例を、業界別にいくつか見ていきましょう。
製造
製造業の環境では、AI を視覚検査システムと統合することで、品質管理と作業者の安全性を向上させることができます。AI モデルは、組み立てライン上で製品の安全面での問題や欠陥をリアルタイムで検出できます。これにより、検査の精度が向上し、製造プロセスの早い段階で問題を発見することができます。ただし、AI モデルがデータを処理したら、デバイスはそれに基づいて非常に迅速にアクションを起こす必要があります。
このようにデバイスを使用して現実世界の物体を識別し、理解することを、コンピュータービジョンと呼びます。コンピュータービジョンを使う企業には、コンピューティング能力の異なる複数のデバイスで動作し、すべてが統合プラットフォームとして機能するエッジ・ソリューションが必要です。
小売
小売業界では、エッジコンピューティングと AI によってカスタマーエクスペリエンスと業務効率を向上させることができます。たとえば、AI を活用したシステムは、在庫レベルを自動的に監視し、必要に応じて補充を開始することで在庫を管理できます。また、エッジデバイスは顧客データをローカルで処理し、パーソナライズされたショッピング体験やプロモーションを販売時点で直接提供することもできます。これがすべてリアルタイムで行われるのです。
このようなシステムを実装するには、AI ハードウェア・アクセラレーションにアクセスできる、統合されたエッジ・ソリューションでエッジデバイスからのデータを管理する必要があります。最も重要なのは、在庫切れ商品に関する特典など、不正確なデータが送信されないようにシステムを統合する必要があることです。
医療
エッジコンピューティングは、医療現場での診断のリアルタイム分析によって医療の提供を変革しています。たとえば、AI 機能を搭載したエッジデバイスは、現場での超音波画像の解釈を支援します。訓練を受けた技術者が不足している場所では、この機能によって医療上の決定が迅速化され、人命救助につながる可能性があります。このような医療アプリケーションには、個人データを保護し、セキュリティ標準を適用し、ソフトウェア・サプライチェーンを保護するエッジ・ソリューションが必要です。
Red Hat のリソース
エッジでのリアルタイムデータ分析の課題
これらのユースケースはビジネスを変革し、さらには人命を救う可能性を秘めていますが、組織はそれを実装する上で障害に直面しています。ここでは、具体的な課題とその克服方法をいくつかご紹介します。
膨大なデータをローカルで処理する
ほとんどのエッジデバイスとセンサーは大量のデータを生成します。データを中央のデータセンターに送り返す従来のデータ処理方法は、レイテンシーや帯域幅の制約によって実行できない場合があります。エッジでデータの処理と分析を行うと、大量のデータを送信する必要がなくなり、レイテンシーが減少して効率が向上します。
より複雑なタスクを処理する
エッジでインテリジェントな意思決定を行うには、多くの場合、アプリケーションがエッジハードウェア上でデータを処理する必要があります。したがって、これらのデバイスには追加の処理能力、あるいはデバイスが持つ処理能力をより効率的に使用することが必要になります。
また、エッジデバイスに AI を組み込む場合は、それらのデバイスに合わせて拡張できるアプリケーション・プラットフォームが必要です。
プライバシーとセキュリティを確保する
エッジでのデータ処理が増えると、サプライチェーンに新たな脆弱性が生じます。たとえば、機密性の高い医療データをエッジデバイスに保存すると、脆弱な攻撃対象領域が生じます。プライバシーと機密データを保護するには、DevOps および AI プロセスの一部としてセキュリティプロトコルを運用できるプラットフォームが必要です。
Red Hat ができること
Red Hat は、組織にはそれぞれエッジに関する独自の要件があり、1 つのソリューションでそのすべてに対応できるものではないことを認識しています。幅広い機能、能力、パートナーを集約する統合プラットフォームによって、エッジ、コア、クラウドの各ロケーションにオープン・ハイブリッドクラウド環境を拡張できるため、あらゆるワークロードをどこでも開発し、実行することができます。
この統合アプローチに AI を組み込むことで、ハイブリッドクラウド全体に柔軟性がもたらされます。また、トレーニング済みの基盤モデルや厳選された基盤モデルに顧客データを追加でき、さまざまなハードウェア・アクセラレーターとソフトウェア・アクセラレーターを自由に使用することができます。エッジでの AI に対する Red Hat のアプローチを通じて、組織は次のことを実現できます。
1 つのアプリケーション・プラットフォームで柔軟性と一貫性を追加
当社のソリューションは Red Hat® OpenShift® から始まります。これは、Kubernetes の機能をコアからクラウド、エッジコンピューティング環境へと拡張する単一のアプリケーション・プラットフォームです。エッジ固有の用途向けに、マルチノードの高可用性クラスタから小型フォームファクターのシングルノードトポロジーまで、さまざまな選択肢を提供します。エッジ環境に合わせて調整された柔軟でスケーラブルなデプロイメント・オプションを提供することで、エッジでの迅速な意思決定を支援します。
Red Hat OpenShift は柔軟性に加え、強く望まれていた一貫性をもたらします。開発者はアプリケーションを一度作成すればどこにでもデプロイでき、運用チームはコアからクラウド、エッジまでを単一の環境として管理できます。また、開発者はすでに使い慣れているツールやプロセスを使用できるため、最大規模のコンテナ化された環境であっても、構成、デプロイ、プロビジョニング、管理、監視の負担が軽減されます。Red Hat OpenShift を使用すると、オンプレミス、パブリッククラウド、工場や病院、さらには衛星など、アプリケーションが必要な場所ならどこでも、一貫したエクスペリエンスを得ることができます。
AI 向けに構築
さらに、Red Hat OpenShift はスケーラブルで AI ワークロードに適しており、一般的なハードウェア・アクセラレーターへのアクセスを完備しています。また、Red Hat OpenShift AI には、実験、モデル提供、革新的なアプリケーションの提供を可能にする、一貫性に優れた運用機能があります。これにより、カスタマーエクスペリエンスをパーソナライズし、工場や現場での資産の可視性と管理を向上させることができます。これは、コンピュータービジョンで使用されるような AI ワークロードを実行している場合は特に重要です。
エッジ用に設計
ファーエッジのデバイスは、フットプリントが小さく、リソースも限られています。軽量の構成で機能するように設計されたプラットフォームを使用することは重要です。なぜなら、特定のタスク用にカスタム設計されているエッジデバイスにデプロイできるからです。また、馴染みのあるツールとプロセスを使用してすべてを管理できます。Red Hat Device Edge はコンテナ・オーケストレーションも可能な、軽量のデプロイメント・オプションを提供します。これにより、ローカルデータ処理と AI および ML ワークロードの実行が可能になり、レイテンシーが最小限に抑えられ、リアルタイムの意思決定がサポートされます。
信頼できる基盤から始める
Red Hat のコア・オペレーティングシステムである Red Hat Enterprise Linux® は、AI ワークロードを大規模に実行するための安定したセキュリティ重視の基盤を提供します。レイテンシーの影響を受けやすいアプリケーションに対応するため、エッジデバイスから中央のデータセンターまで、さまざまなハードウェア上で AI モデルを効率的に運用することができます。
この柔軟性により、一貫したパフォーマンスと信頼性を維持しながら、インフラストラクチャ全体に AI および ML アプリケーションをデプロイできます。その結果、データインテリジェンスをより効率的に使用して、運用を最適化し、カスタマーエクスペリエンスを強化し、より優れた製品とサービスを顧客に提供できるようになります。
自動化のメリットをエッジに拡張
エッジに接続するためのスケーリング操作は、数十万の手順と構成が必要になるため、困難な場合があります。Red Hat Ansible® Automation Platform は、ローカルおよびリモートの自動化ワークロードの容量を確実にスケーリングします。Ansible Automation Platform には、自動化ジョブを実行するのに最適なノードを判別するヘルスチェックが組み込まれており、IT インフラストラクチャを適切な位置に保持する接着剤の役割を果たします。
グローバルなパートナーシップと AI の力をエッジにもたらす
Red Hat のハードウェアパートナー (NVIDIA、Intel、AMD など) は、エッジでハードウェア集約型の AI ワークロードを処理し、Red Hat のオープンソース製品と統合するソリューションを提供しています。
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